05.理性が強すぎる

港風に黒髪をなびかせて颯爽と歩いていたルーティが、不意に足を止めた。つられて立ち止まったスタンはすれ違う人にぶつかりそうになった肩を少し退いて、訝りながら彼女の隣に並んだ。
にぎやかなセインガルドの商店街。昼も夜もわからない薄暗さにはもう慣れたのか、街を歩く人の姿も増えた気がする。困難の中でも前向きに日常を取り戻しつつあるこの場所からは高台にある立派な屋敷がよく見えた。
あの屋敷にはもう主はいない。帰らぬ主人を待つ使用人たちだけが、空虚な屋敷を今も整えているのだ。
かじりかけのりんごを手にしたまま、時が止まったように一点を見据える彼女の瞳には、どうやら薄闇に浮かび上がるそれが映されているようだった。
澄んだ紫の瞳が不安定に揺れる。その気高い輝きの奥にどんな思いが潜んでいるのか、スタンには察することも叶わない。
彼女の心は常に頑強な要塞で隠されている。
スタンは小柄な彼女を見下ろしたまま、無力感と憤りを痛感して途方に暮れた。


たとえば、人はどれほどの感情を内に溜め込むことができるのだろうか。
喜怒哀楽やそれに分類できない複雑な感情の数々。
生きている限り絶え間なく生まれる思いは、常に収束点を求めている。表情に表したり、他人にぶつけたり、打ち明けることで昇華していく。
ところが彼女はほとんどの感情をいつも喉元で飲み込んで隠してしまうのだ。一人では抱えきれないほど深い思いも、嘘や誇張で装って強気な態度でごまかしてしまう。それはもしかしたら、他人に対してだけでなく、自分自身をも偽っているのかもしれない。
そうして彼女はいつだって、自由と責任を背負ってたった一人で立っている。
それを強さという人もいるだろう。だが、スタンはそう思わない。
彼女を見ているとたくましさよりも危うげな儚さばかりが目に付いて、無性に不安になるのだ。
他人には明かせない弱い感情。
それを認めずに強くいられるはずがない。いつか必ず彼女はバランスを崩してしまう。
だからこそ彼女には全てをさらけ出せる場所が必要なのだ。嘘も虚勢も強がりもいらない、彼女を優しく受け止めてあげられる優しい場所が……。


(俺がその場所に、なんていうのはおこがましいかな)
相変わらず堅い表情のまま高台を見据えるルーティにスタンはかすかに顔を歪めた。
どうしたら頑なな彼女に近づけるのだろう。どうしたら支えとなれるだろう。
傷を隠して平気なふりをする彼女が痛々しくて、見ていられない。
「……あそこにはもう誰もいないのね」
ふとまるで独り言のように、ルーティが呟いた。「え」と間抜けな相づちを打つスタンには視線もくれず、自嘲気味に笑った。
「いいの、なんでもない」
「ルーティ……」
今彼女を満たすのは、きっとあの屋敷と同じく空虚な感情。珍しく垣間見えた感情は想像することはできても理解することは難しい。弱さを見せることは罪だと信じている彼女は、たとえくじけそうになってもこうして理性で抑えてしまうのだろう。
スタンはもどかしさに唇を噛んだ。
気の利かない自分は、励ましも慰めもうまく言葉にならない。こんな不器用が彼女を守ろうだなんて、あまりに役不足だ。
それでも何かを伝えたかった。孤高な彼女のそばに自分がいることをしめしたかった。

スタンは何も言わずに腕を伸ばすと、下ろされたままの彼女の左手に自身の右手を滑り込ませた。ほっそりした手はグローブ越しでも頼りなく思えて、切なくなる。
どうか彼女の優しい場所になれるように。
つないだこの手を、いつか求めてもらえるように。
切実な祈りをこめて、強く強く力をこめた。

『テイルズオブデスティニー』よりスタン×ルーティ
 

―作品とカップリング語り―
カナタの個人的な印象と感想を述べてます。肯定的ですが、気を悪くされる方はやめたほうがいいです。


テイルズの代表作といえるでしょうか。デスティニーはとにかく衝撃的でした。
相変わらずリオン人気はすさまじいし、「剣がしゃべるゲーム」といえばたいていの人に通じる(笑)
実はテーマソングにつられて買ったゲームだったんですが、予想外にストーリーやキャラクターが好きになって今では手放せないゲームの一つになりました。
友人は巷で「空気王」なんて呼ばれてしまう彼がイチオシだったらしいですが、私の最愛は彼ではなく熱狂的人気な剣士様でもなく、ジョニーです。山ちゃんの美声ももちろん、いちいち言うことがかっこいいのです。技のミラクルボイスも面白くて多用しておりました。
ソーディアンも含めればメインキャラ総勢14人!?大所帯ですがどのキャラも魅力的で、深刻なストーリーも感動でした。


プレイ前はCPには期待していなかったのですが、私にしては珍しく主役コンビにハマリました。まあ、ルーティみたいなヒロインは珍しいですけどね。
1部は主にリオンとスタンがメインなのであまりルーティは目立ちませんでしたが、リオンの死後、急に気になるキャラになりました。強気な態度でめったに弱みを見せない彼女がラディスロウで泣いた時は、自分も同調してボロボロ泣いちゃったし……(恐るべしフルボイス)
天然太陽みたいなスタンと、なぞめいた月みたいな関係がすごく好みで、しかも本編では恋愛色が薄いので妄想が止まらない……!!
でもこれも意外に二次創作は少ないカップリングなのですよねー……。