意地を張っていたとか、素直になれなかったとか、そんなたいそうな理由があったわけじゃない。ただ単に忘れていたんだ。タイミングを逃していただけ。 みんなのために、世界のために……と尽くすことばかりに一生懸命で、自分のことを考える余裕なんてなかった。もちろん、それは向こうも同じだったかもしれないけど、あたしよりよっぽど器用なあいつは何もかもきれいに一人で片をつけてしまったらしい。 あたしの心がやっと追いついて、そしてあることに気付いたとき、あいつはすでにあいつ自身のために動き始めていた。いつものようにあたしを待っていてはくれなかった。 ――もう同じ場所には立っていなかった。

エクスフィア回収の旅。
あたしや他の仲間と同じく再生後の秩序形成に追われていたロイドが、近い未来それを目的に世界をまわると言っていたのはよく覚えている。それは重要だと思うし、たぶんロイドにしかできないことだと信じていた。
だけどまさかその旅にゼロスが同行することになっていたなんて、まったく知らなくて思いもしなくて。
久々に尋ねていったメルトキオの、主のない空の屋敷であたしはしばし呆然とした。彼の執事が申し訳なさそうに頭を下げるのを見て、置いていかれた現実を知った。

……本当は置いていかれたなんて言葉すら、おこがましいのかもしれない。
あいつの人生はあいつのものだから、あたしに断る義理はない。そもそもあたしたちの間に、どんな関係が築かれていたかを冷静に分析してみても、何一つ確かなものなんてなかった。
あるのは形式的な立場と、一緒に一つのことを成し遂げたという事実だけ。
そこに付随する信頼とか絆なんてものが本当に存在したのか、あたしにはわからなかった。
だから何も言わずに旅へ行ってしまったことが、その答えだった気がしてあたしは愕然としたんだ。寂しくて空しくて……悔しかった。

ロイドとゼロスはエクスフィア回収と、再生後の世界の状況を知るためにそれこそ世界中を転々と周っているらしい。英雄と元神子の奇妙な取り合わせは印象強いらしく、そこかしこで噂を聞いた。
ミズホの情報網も動員すれば行方を探るなんて簡単なこと。
であるのに、それをしなかったのは、ひとえにあたしの心の問題だった。
自信がなかった。あいつにもロイドにも、顔を上げて話をする自信が持てなかった。どうしてだろう。しばらく会わないうちに、彼らがまるで遠い世界の人のように思えたのだ。
再生から数ヶ月、こんなところでまた以前の卑屈なあたしがひょっこり顔を出している。



「あ、しいな。いらっしゃい! 待ってたよ」
それからのあたしはやっぱりそれまでのあたしと同じで、むしろロイドやゼロスのことを忘れようとするかのように仕事ばかりに没頭していた。自分の時間なんて欲しくなかった。
メルトキオでテセアラ王から勅命を受けて、そのまま休憩も挟まずにイセリアに直行するなんてこともざらで、だからその日も幾分やつれた姿であたしはコレットの元を訪れた。
「大丈夫? 少し天気が悪いから寒かったでしょ? 今あったかいお茶淹れるね」
「ありがとう」
屈託のない柔らかな笑みは、あたしのささくれ立った心を浸み込む水のようにしっとりと癒してくれる。久しぶりにほっとした心地で、あたしは危なっかしい手つきで注がれる紅茶を見つめていた。
「疲れてるでしょ、しいな。無理しちゃダメだよ?」
「ああ、うん。今日はもう遅いし、ミズホに帰らずにイセリアに泊まろうと思ってるんだ。少しゆっくりできるかね」
「うん、そうしたほうがいいよ。なんなら、うちに泊まってしいな。また旅のときみたいに一緒に寝ようよ」
「うん、そうだね。それも楽しいな」
再生の旅は楽しいばかりではなかったけれど、コレットやリフィル、プレセアと過ごす、宿での夜は今でも思い出して笑ってしまうくらい楽しい思い出だった。その一日の中で唯一の穏やかな時間だった日もあっただろう。コレットの本気なのか冗談なのか判断しがたい妙な話も、とたんに懐かしく思われた。

無事こぼすことなく注がれた紅茶をいただいて一息つくと、ふとコレットは何かを思い出したように手をたたいた。
「そう、楽しいと言えば! あのねしいな、今ロイドがイセリアにいるんだよ。ゼロスも一緒。今はダイクおじさんのところにあいさつに行ってるみたいだけど、あとでこっちに来るって」
「ロイドとゼロスが……」
「うん、しいなも会うの久しぶりでしょ? 今日は嬉しいね、一度にこんなたくさんの人が集まるなんて」
無邪気に喜ぶコレットに対し、あたしは複雑な気分で曖昧に頷いた。突然訪れた再会の機会。それを嬉しいと思うより先にすくんでしまう弱腰な自分がいる。
何も言わずに旅へ行ってしまったゼロスが、しいなと会ってどんな顔をするのか、想像するのも怖かった。
きっと疑心暗鬼になっているだけで、いつもと同じようにへらへらと笑いながら「よお」なんて軽く手をあげるに決まっている。常に他人と一線を隔てた場所にかまえているあいつのことだから、その差が広がっていたとしても以前とそう変わりはないのだろう。
……だからこそ、会うのが怖かった。縮まらない距離を改めて自覚するのが嫌だった。
「このお茶菓子もね、ロイドがお土産に買ってきてくれたんだよ。すっごくおいしいの。しいなも食べて?」
「……うん、ありがとう」
すすめられるままのろのろと茶菓子に手を伸ばすあたしに、さすがのコレットも困ったような笑みを浮かべる。鈍いように見えて人一倍他人の心に聡いコレットのことだから、あたしのあからさまな変化にはとっくに気付いているだろう。けれどそれを無遠慮に聞いてはこないところが、彼女の優しさと強さだった。

ロイドという一人の少年に同時期同じ想いを抱いていたあたしたち。互いの想いの方向に気付きながら、コレットは焦ることもあきらめることもなく、ただひっそりとロイドのそばにいた。
どちらの想いの方が勝っていたなどと勝負をするつもりはない。けれど旅が終わって、それぞれがそれぞれの道を歩み始めて、客観的に自分を見つめなおしたあたしはぼんやりと悟ったのだ。ロイドの強さに憧れているだけのあたしではロイドのそばにはいられない。ロイドと同じほどの強さと優しさと思いやりで、彼を支えてあげられるくらいでないと、彼の隣は務まらない。
そこでやっとコレットとロイドが並ぶ自然な姿に気付いたのだ。
悔しくて情けなかったけれど、自身で納得してしまった事実に目を背けてしまえるほど愚かでもないあたしは、独り相撲の恋が静かに幕を閉じたことを知った。
そして今ロイドに会うのをためらってしまうのも、そんな身勝手な劣等感が原因だった。

「あ、ロイド!」
そろそろ夕暮れ時から本格的な夜へ移行する時刻。半分だけ開けられたカーテンの向こうに気付いたコレットは、弾む声で件の名前を発した。思わずビクリと肩を揺らすも、わざわざ家を飛び出して迎えに出たコレットを引き止めることはできずに、妙にうるさい心臓を内包したまま硬直したように座り続ける。
果たして、矛盾した心地の悪い再会は、すぐに訪れた。
「あ、しいな! 久しぶりじゃないか!」
コレットに続いて玄関をくぐったロイドは、以前より少し大人びた表情で以前と同じように無邪気に笑った。相変わらず一張羅の赤い服。そんなところにどうしようもなく懐かしさを感じながら、しいなは目を細めた。
ああ、なんだ。思ったよりふっきれている。
「ロイド! 元気だったかい?」
苦手な表情細工に苦心することもなく自然と喜びの笑顔が浮かんだ。覚悟した胸の痛みもなかったことに安堵して椅子から立ち上がると、ロイドとコレットの向こうに人影が映っる。
「!」
かったるそうに立つ紅い髪の男。あたしを見つめて、一瞬丸くなる青い瞳。
胸の痛みは今頃になってあたしを内側から強く叩いた。
「よお、しいな! なんだ、お前も来てたの?」
わずかに取り乱したようにも見えたゼロスの態度は、やはり以前と同じ一線を隔した距離から放たれる愛想尽かしで、変わらないことにほっとする反面、変われないことにもどかしさがあふれる。
「なんだい、来てたら悪いかい?」
「だからそうけんか腰になるなって。むしろ逆よ。こんなところで偶然会えるなんて運命?みたいな。あ、もしかして俺さまたちを追ってきたの?」
「なななにバカ言ってんだい。こっちは仕事だよ。あんたの引継ぎも含めてあたしは大忙しなんだ」
あたしには一言も告げずに旅へ出てしまったゼロスは、そのことを覚えてないのか気にとめてもいないのか、あえて普段どおり軽口を言って笑った。

はたから見れば相変わらずのやりとり。けれどそこへいっそう深くなった溝を感じるのはあたしだけだろうか。
怒った顔をつくろうことができなくて目をそらしたあたしに、なぜか苦笑したらしいゼロスは気を取り直すようにロイドの肩をパンと叩いて提案した。
「ま、こんだけ人数もいることだし、今夜はおでんでも作ろうぜ」
「お、いいなそれ! 二人だとああいう鍋物って作りにくいんだよな」
「あ……でもうちにみそがないよ?」
「だーいじょうぶよ、コレットちゃん。おい、ハニー。俺さまみそとか入り用なもんお前んちに置いた荷物から取ってくっからよー」
「ああ、頼むよ。できれば親父も誘ってくんねーかな」
「おう、任せとけ」
無駄話ばかりのゼロスが珍しくてきぱきとしきると、彼はあたしを見ることなく玄関を出て行った。暗くなり始めたイセリアの広場を横切って、村の奥へと消えていく。

彼らしくない積極性に違和感を感じていると、コレットも同感だったのか、不安そうにロイドを見上げた。
「ゼロス、どうかしたの? なんか焦ってここを出て行ったような…気がしたんだけど」
「ああ、あいつな……。なんか妙なところで不器用だよな」
ポリポリと頬を指で引っかきながらコレットを見下ろし、続いてあたしに視線を移したロイドは、ごまかすように微笑んだ。
「不器用ってどういうことだい?」
「え……だからさ。なんていうか、照れくさいんじゃないか? 久しぶりに大事な人たちと会って」
ロイドの口から飛び出たおよそゼロスを形容するにふさわしくない言葉に、あたしは思わず「はあ?」と間の抜けた声で聞き返してしまった。
「照れ…って、あいつがそんなタマかい?」
「まあ、そうは見えないけど。ゼロスって平気な顔でなんでも受け流しちゃうだろ? けどさ、最近わかったんだけど、あいつけっこう臆病なのな。本当に大事にしてる人ほど、素直になれないって言うか」
もともとあまり言葉の選択が上手ではない少年が、必死に言葉を探しているのがわかる。たぶん彼は多くのことを感覚で認識する人間だから、二人旅を始めてわかり始めたゼロスという人柄をうまく表現するのが難しいのだろう。
それでもロイドはあたしよりよほどゼロスを理解していると言うことだけははっきりとわかって、そこにまた寂しさに似た悔しさのような、同じく言葉で表現しづらい感情が浮かんだ。
「なんていうか、そう、自信がないんだってさ。好かれるより嫌われるほうが怖いって言ってた」
「言ってたってゼロスが?」
「ああ、酔った勢いで」
「……………あそ」
酔えばそんな弱音まで吐いてしまう男だったのか。いや……相手がロイドだからかな。
つい脱力してしまったあたしはそのまま俯いてロイドから顔を隠した。長い付き合いであるのに、まるで知らなかった側面が次々現れて正直痛い。
結局あたしはゼロスにとって何だったのだろう。少しでも特別な位置にいるような気がしていたのは、大きな勘違いだったというのか。そう思わせるようなあいつの態度もやっぱり愛想だったというわけ?

窓の外はすでに暗くなっていた。メルトキオのように街灯のないこの小さな村では、代わりにかがり火がたかれ、その暖かな淡い色が村の姿をぼんやりと映し出している。
「……………………」
かがり火が照らすもっと向こうへゼロスが消えてから、そう時間はたっていないはずだ。あたしは反射的に立ち上がると、低く唸るように宣言した。
「……ごめん、ちょっとゼロスをぶん殴ってくる」
「え、しいな?」
「ぶん殴るって……ええ!?」
目を丸くして呆然とするコレットたちを置いて家を出ると、ゼロスが向かったであろう方向へ駆けて出した。
あのときもこうしていればよかったのかもしれない。黙って行ってしまったことを嘆くのではなくて、どうしてそうしたのか、ちゃんと本人の口から確かめればよかった。
けれどそれができなかったのは、やっぱりあたしも臆病だからで。お互いに平行線のままでは一向に距離が縮まるはずなんかないんだ。
踏み出さなきゃ。もう逃げないって決めたのはあたし自身。たとえどんな答えが待っていても、曖昧な推測よりあいつの本当がほしいから……。

村を出てすぐの森に、目立つ後ろ姿はすぐに見つかった。生来の足の長さゆえか大またに歩きながら、けれどやる気なくだらだらと進む後ろ姿は見慣れたもの。
「ゼロス!」
呼びかけるとピタリと立ち止まった背中は、妙な間のあとゆっくり振り返った。明かりがないせいで表情ははっきりしない。けれど自分を偽ることに関しては一級品のゼロス相手に、表情から本心を推察するのはあまり効果がなさそうだった。
「なーによ、しいな。俺さまに用?」
どこかなげやりな口調が返る。答えないまま隣に並ぶと、ゼロスは少しだけ呆れたような声で「ロイドは?」と聞いた。
「コレットと家で待ってるよ」
「いいのかよ。久しぶりに会って再会を喜ぶついでに、ちょっと変わった自分をアピールするところなんじゃないの、そこは」
「別にあたしはそんなんじゃ……」
「まあコレットちゃんのいる前じゃ、そんな大胆なことできるしいなじゃないわな」
「……っ!……」
あからさまに悪意ある言葉に、あたしは絶句した。いつもそうだ。ゼロスの口からあたしに向かってロイドの名前が出るとき、そこにはなぜか悪意がある。からかうというには真面目すぎる態度で、トゲのような言葉を振り下ろす。
旅をしていた頃のあたしは確かにロイドにそういう感情を抱いていたから、敏感なゼロスはそれを察していたに違いないが、今ではもう、だいぶ前に悟った恋の終わりを少し懐かしんでいる、そんな程度の想いしかない。
それなのにゼロスはどうしてあたしの古い心を底からかき回すような言動をするんだろう。あたしの変化を気付かないはずがないのに。

「まあいいや。……んで、楽しんでやってるの、そっちは」
俯いて震えたあたしの頭に、ふとかするように暖かな手のひらが触れた。口調の険も和らいだ声で、ゼロスが再び歩き出す。一瞬止まってしまったあたしの思考は、すぐには質問の内容を飲み込めなかった。
「え…あ、うん一応。頭領としての仕事を少しずつ教えてもらいながら、王室以外からの調査依頼とか請け負い始めてるよ。……忙しいけどさ、楽しいね」
「ふーん、なるほどな」
気のない相づちのゼロスをにらみつつ、あたしは原因のわからない奇妙な緊張を抑えるのに苦心する。ゼロス相手に緊張などしたことないのに、どうして今こんなに胸が苦しいんだろう。
「そ、そっちは? 旅、どうなんだい?」
声が上ずってしまったのは不覚だった。思わず舌打ちしそうになるのをこらえて、代わりにつま先に当たった小石を蹴る。二人の声と足音しか響かない暗い森に、浮き上がった小石が下草をかき乱すささやかな音がやけに響いた。
「んまあ、目的地がコロコロ変わるもんでとりあえず飽きはしないな。でもよー、ハニーすーぐ脱線すんのよ。俺たちゃ巡回慈善事業じゃねーっての」
「でも似たようなもんじゃないか」
「そりゃそうなんだけどよ。……ま、ついでに世界中の女の子たちともお知り合いになれるし? 俺さまも十分楽しんじゃってるんだけどなー!」
だんだんといつもの調子を取り戻したゼロスは、セリフの後半を声高に響かせてケタケタと笑った。相変わらずの女好きに呆れて、あたしは大きなため息とともに額に手を当てる。以前なら「ふざけてんじゃないよ」と手が出たのに、今はなぜかそれを自制するように腕を組んで拘束してしまった。
「メルトキオじゃあんたのハニーたちが寂しがってるよ」
「お、そうかー。たまにはあっちにも顔出さないとな」
「ああ、忘れられちまうんじゃないのかい?」
「それはないだろ。俺さまの美しい顔を忘れられるわけねーし」
呆れなのか怒りなのかわからない荒れた心を体現するかのように、あたしの歩調は乱雑になる。よく知っているはずのゼロスの軽薄ぶりがやたらと癪に障った。
十把一絡げのハニーたち。名前のない女たちは、彼の特別になろうと四苦八苦しているのに、当の本人がこの調子では人を馬鹿にするにもほどがある。
どんなに近づきたいと思っても、決して彼は近寄らせてくれないのだ。ゼロスの引いた一線を越えられた人間はいまだかつて数えるほどしかいない。そしてその一人に、自分は……。

「はいはい。その自信はどっからくんのかねえ」
「現にしいなは忘れなかったろ?」
「………………………」
何気なく放たれたゼロスの一言にあたしの足は硬直したように動かなくなった。
胸の内側が痛い。ロイドの態度に一喜一憂していたあの頃とは比較にならないほど。
身体の中から打ち破るかのような強さで強打された心は、視覚や聴覚をあっさりと占領した。
共に旅をしたあたしでさえ、不特定多数の、ゼロスにとって同じ名前の女たちの一人なんだ……。
優しくされても意地悪されても、ゼロスにとっては特別なんかじゃなくて、大勢相手のパフォーマンスでしかない。それを少しでも期待して特別な絆があると勘違いしていた自分が、恥ずかしくて悔しくて無性に寂しい。
いや、勘違いじゃない。確かに絆はあったんだ。けれどあたしは出遅れた。一瞬でもこちらを向いていてくれたゼロスには気付かないふりで、いざ我に返って追いかけたときにはすでに手遅れだったのだ。
今ではもうゼロスの心は閉ざされてしまっている。それが再びあたしに向かって開くことがあるのか、それはわからない。
でも……。

「しいな?」
突然立ち止まったあたしに気付いたゼロスが数歩先で振り返った。暗闇に慣れても窺えない彼の表情は、今どんな思いを装っているのだろう。
「……本当はさ」
お願い、ほんの少しでいいからあたしに本心を見せて。あたしを特別な場所へ踏み入らせて。
ロイドのように、大きな心で包むことはできないかもしれない。それでもせめてあんたの隣を歩けるように、一生懸命追いかけるから。
「あんたに会いたかったんだ。コレットよりロイドより誰より、あんたに。旅に行くことを知らせてくれなかった薄情なあんたに」
ゼロスが息をのんだ。中途半端に振り返った格好のまま、珍しく彼が動揺している。それが絆の名残だと信じて、あたしはもう一声を震えた声で告げた。

「ねえゼロス。今から追いかけるんじゃ遅いかい?」


絆頼りの鬼ごっこ




 しいなの心がこっちに向くことは絶対ないと信じてるゼロス。ゼロスの特別になれるはずないと知ってるしいな。
 すれ違ってる卑屈コンビ。でも今回はしいなに勇気を出させてみました。そして見事に冒頭と結論もすれ違ってる。
 一つの話に全部の要素を詰め込もうとするから収拾がつかなくなるの典型みたいな話だな。いつかリベンジしたいー。