「……ねえ、あんたの昔の話をしとくれよ」
それまでのたわいのない会話から一転、唐突な話題の転換に一瞬面食らったゼロスは、言葉の内容を理解すると同時に不快げに目を細めた。
青灰の瞳が非難を訴えてくる。だけどそれには怯まずにあたしは同じ強さでゼロスの瞳を見つめ返した。
「あんたの口から聞きたい」

互いの過去は詮索しない。
あたしが神子ゼロスと知り合って気楽な会話をかわすようになってから、それは暗黙のルールとして二人の間に横たわった。
厳密に言えばこれを意識していたのはあたしのほうで、やつはちっとも気にしていなかったように思う。それはたぶん、あいつが自分の過去を隠すのがうまくて、なおかつさらりと他人の過去を避けることに長けていたからだろう。
とにかくあたしたちの間には多くの会話がかわされたが、相手の核に触れるような話題は一つとしてのぼることはなかった。
もちろん、互いの過去を知らないわけじゃないんだ。あたしは情報に強いミズホの民だし、あいつだって国王に次ぐ権力を持った神子。知ろうと思えば過去の話など簡単に手に入ったから、事実さらしたくない過去をお互いに握り合っていたんだろう。
知っているのに素知らぬふり。なんともこっけいな三文芝居だ。
だけど相手が自分の過去を知っていてくれて、しかし直接触れてくることがないというのはとても楽だった。
精霊研究所の前で倒れたあたしを何も言わずに介抱してくれたこともあったし、例年より早い初雪を眺めながらただ隣に座っていたこともあった。
傷の舐めあい……というより、共犯という言葉のほうが近い。互いの過去から目をそらしながら、都合のいい相手として利用する。あたしたちは共犯者だった。
だからあの時、裏切りを明かしたあいつを責められなかったんだ。
だってそうだろう? あいつの過去から目をそらし、あいつの苦しみや葛藤さえ見ないふりをしたあたしには、あいつを責める資格がない。
歪んだ笑みを残して向けられた背中に何一つかける言葉がなくて、あたしの心はきしんだ音を立てて窮屈にもがいた。
……いつのまにかそのルールは、あたしに重い枷となってのしかかっていた。
過去をえぐらない。潜む闇には目を向けない。
自分を甘やかすために自然と出来上がっていたルールと、二人の関係。
ロイドたちと出会って、世界を変える旅をして、何の因果かまだこうして隣にいて。
それでもあたしたちはまだ共犯者なのだろうか?
いつでも切り捨てられる都合のいい同類のままなのか?

……いいや、きっともうそんな薄い間柄なんかじゃない。
過去を知ることは相手の心に土足で踏み込んで汚すことだと思っていた。
だけどそれは臆病で無責任な言い訳でしかないから。過去を抉り出してそのまま放り出してしまったら確かに相手を傷つける行為だけど。
目をそらさずに向き合えたら、一緒に過去の苦しみを背負って分け合っていけたなら。
あたしたちはきっと本当の仲間になれる。
後ろ暗い共犯者なんかじゃなくて、心を開ける大切な仲間に。
だから少しだけ無遠慮な振る舞いを許して欲しい。あたしはきっとあんたの過去と向き合うから、あたしの過去にあんたを受け入れるから。
どうか一緒に無責任だった罪から足を洗おう。


共犯解消


  


 こういう関係もゼロしいの一種かなぁと思った。ある意味で不健全な関係。
 途中クラトスルートに行っちゃいそうな流れでしたけど、強引に軌道修正。やっぱり光ある to be continued がいいですよね。