「俺はもう我慢できないからな、コレット! みんな聞いてくれ。コレットは今……」
耐え切れなくなったように、どこか怒りさえにじませながらロイドが告白したのは、あたしが殺そうとしていたシルヴァラントの神子の異変だった。
眠れない、感じない、痛みも空腹もない。
人間離れしていく身体を抱える気持ちはどんなに恐ろしいことだろう。
それでもコレットは一度も弱音を吐かなかった。世界中から寄せられる残酷な期待に恨み言をこぼすこともしなかった。
ただいつも穏やかな笑みと優しい慈愛をたたえて、今という儚い瞬間を心に刻み込むように一生懸命生きて………我慢して。
ついに無慈悲な運命は、一途でけなげな彼女から声まで奪った。
神子であるがゆえ、それだけで。

――神子。
最近までその言葉がさす人物はアホの男のことだった。
まるで本当に口から生まれたのではないかというほど、おしゃべりで軽薄なあいつ。こっちの神子と同じように常に笑顔を浮かべていたが、種類が違う。あいつの笑みは薄っぺらい。同様に態度も声もいい加減で信用できないものだったが。
時々、あいつは薄っぺらい笑みで変なことを言った。皮肉だったり、批評だったり。そういうときは決まって低い声を出す。いつものうるささが偽物みたいに、重くて深い不思議な声を。
「ま、俺さまは神子だからな〜」
ふと、思う。
あたしにコレットを殺す意思がなくなった今、もしここで世界再生が成功したら、あいつはどうするのだろう。どうなるのだろう。
同じように、失っていくのだろうか…。眠りを、痛みを、声を……。
声のない彼なんて、想像すると痛々しかった。見ていられない、きっと。
だけどテセアラが衰退したら、あたしはたぶんあいつを世界再生に送り出すだろう。彼の残酷な未来を知りながら、それを押し付けてしまうだろう。
ああ、なんて非道な世界のシステム。なんて無情なあたしの心。

乾いた町に、冷たい風が吹きぬける。砂をからめて舞い上がったそれは、いたずらにあたしの固い髪に戯れてあざ笑うように山頂へかけていった。
なんとはなしにその軌跡を追った先に、二人の人影。件の神子と、彼女を支える真っ直ぐな少年。
暮れゆく空と、冷淡な塔を背景に目と指と掌で会話している。それがひどく切なくて、あたしはかすむ視界を静かに閉ざした。異郷の風は音だけが、あの懐かしい世界と同じだった。





しいなはコレットの天使化を見ながら、ゼロスのことを思い出さなかったはずはないと思うんですよね。