自業自得。普段の行いが悪い。 言われてしまえばそれまでなのだが、彼女のそれは時々納得がいかない。 「へえ、似合ってんじゃん」 付け足しそうになった「さすが爆乳しいな!」という余計な一言はなんとか飲み込んで、賞賛してみる。 正直、きわどくて目のやり場に困るようなデザインではあるが、しいなほどグラマーな女ならば「似合う」と言っても嘘ではないだろう。そもそも水着なんてものは見せるための下着だとゼロスは思っている。「ビーチクイーン」の名の通り、人の視線を集めるには十分な仕上がりになったのだから、自慢してもいいのに。 ところがしいなはゼロスの言葉にきっと眦を吊り上げた。 「なんだい! どーせそれもまたイヤミなんだろ!?」 「な、そんなこと言ってないでしょーよ。俺さま単純にしいなを褒めたんだぜ?」 「嘘だね。あんたが素直にあたしを褒めるわけないじゃないか。いつかみたいに、馬子にも衣装だとか、爆乳しいなだとか思ってんじゃないのかい?」 「え、まさか!」 飲み込んだはずの一言が知らず口に出ていたのかと思わずぎょっとすると、思いつきの発言に確信を持ったらしいしいなは、豊かな胸の下で腕を組んでツンと顔を背けてしまった。さっそくご機嫌斜めらしい。 せっかくの厚意を無下にされてこっちだってカチンときた。ため息まじりにぼやいてみせる。 「あーあ、なんでしいなって俺さまの言うこと全てにつっかかってくんのかね。似合うって言ってんだからありがたく受けとっときゃいーじゃないの」 「アンタが言うことには、まず疑ってかかることにしてるのさ。信用なんないからね」 「信用…ねぇ」 自嘲気味に鼻で笑えば今度こそしいなはゼロスに背を向けて、ホテルの入り口のほうへツカツカ歩いていった。ビーチクイーンは後ろ姿まできわどくて、ゼロスはお礼と称してこれを寄越した母親の趣味に首をかしげる。しいなのハイレグといいゼロスのビキニパンツといい、お礼どころかこれはむしろ嫌がらせなんじゃないか? 「よー、みんな! お待たせ!」 陽気な声が背後からかかった。しいなと二人振り返ると、われらがロイドくんが片手を上げて駆け寄ってくる。麦わら帽子のお子様も一緒だ。 「ローイドくーん、遅いじゃないのよー……ってなんだそのオプション」 ゴーグルにシュノーケル、おまけに水かきまで。まるでダイビングのような出で立ちだが、遠浅のアルタミラの海岸では無理だろう。 呆れを通り越して笑いさえ誘うような格好にげんなりして見せれば、褒められたと勘違いしたのか少年は嬉しそうに「へへ、いいだろー」とその場でくるりと回った。 「ホテルの人が貸してくれたんだ! やっぱ海といったらこうだろ?」 「もー、ロイドってばはしゃいじゃって…。一緒にいるボクのほうが恥ずかしいよ」 などと言うジーニアスの右手にはバケツとシャベルのセット。お前も人のこと言えないだろ。 「なんだなんだ、お前ら。海っつったらナンパでしょーよ? 色気ねーなぁ」 「アンタに言われたくないね」 「うるせ、がきんちょ」 「はん。このナンパ師が!」 どこかまだ不機嫌の残る声でしいなが隣に立つと、その姿に気付いたロイドが「よ、しいな」と笑った。 「なあ、見てくれよ。海って感じだろ?」 「ああ、似合ってるじゃないか」 「だろ! へへっ、しいなもよく似合ってんぜ」 「え……そうかい?」 瞬間、しいなの頬が赤く染まった。さっき同じ言葉をゼロスが投げかけたときとはえらく異なる対応だ。俺さまだってその反応が欲しくてそう言ったのに、釈然としない苛立ちがふと腹に湧いてくる。 ……ってゆーかロイドくん、しいなの水着姿みて顔色変えずに「似合ってる」なんて、鈍感にも程があるぜ。 「んじゃ、これで揃ったね」 「あれ、他のやつらは?」 赤い頬を隠しながらしいなが告げると、ロイドがきょろきょろと辺りを見回した。 「ああ、ショッピングモールがあるってんで、女性陣はみんなそっちさ。リーガルも案内するっていうんでもう行っちまったよ」 「何だよ、つまんねーの。先生は来ないのわかってたけど、コレットまでさー」 「まあまあ、女の子にはいろいろ事情があるってもんよ。さあさ、いきましょー」 「ああ、そうだなっ!!」 物事をあまり深く考えない少年は、一瞬よぎった「つまんない」などすでに忘れた様子で駆け出した。「待ってよ、ロイドー」とねこにんサンダルが追いかけていく。 とても十七歳のお年頃とは思えない少年の幼さ……いや、無邪気さに苦笑がもれた。 「人徳ってやつかねぇ……」 「ほら、何してんだい。ナンパしに行くんだろ?」 ロイドの一言ですっかり機嫌が直ったのか、しいなが振り返った。なんかすげー面白くないけど、こうしてこっちを見てくれるなら“今はまだ”それでいいか。 「おうよ。海辺のハニー、待ってろよ!」 「はいはい、人様に迷惑かけんじゃないよー」 |
鈍角プロローグ |
お決まり水着称号ネタ。極上ナンパ師称号でフラノールへ行くと女の子に馬鹿にされる……のが好き(笑)
本当はもっと続くはずだったのに、流れ的にここでいったん終了。その後はまた書きます。